遅ればせながら日本でベストセラーとなった「女性の品格(著・坂東眞理子)」を読みました。

品格とか品性という言葉はお高くとまった印象を与えがちな言葉ですが、実は日常生活の端々に表わされるものなんですね。この本も自分をどう見せるかという安易なハウツー本ではなく、自分の人生を真に豊かに送る方法、生きることへの矜持について深く考えさせられる内容でした。

一方で冷静になってみれば「人として当たり前」なことが書かれているこうした本が爆発的に売れた背景には、品格の欠けた日本人が増え、そうした状況に流されつつもどこかで「これではいけない」と危機感を持っている人が多く存在することを物語っているのではないでしょうか。

先日、ある企業のマネージングディレクターの方とお話していて、ふと訊かれた質問がありました。
「人を採用する上で普遍的に重要な基準とは何ですかね」と。
そのご質問に対して私は「知性と品性」とお答えしました。

「知性」これは学歴とは無縁のIntelligenceのことだと思います。

確かに高学歴の方とくに有名大学の卒業者は10代という若年期に「一定期間である水準の学力を蓄える」ことを試され入試を突破しているので、効率的に学習する能力(というかノウハウ)を持っている人が多いのは否定できません。でも、与えられた環境の中で手探りで問題解決を図っていくことが出来るかどうかは、必ずしも学歴に由来していないと思います。

一言で言えば「地頭の良い人」。

持てる常識を駆使し、論理的に物事を整理し問題解決を行うことができる。また失敗を予知するだけの想像力を持ち、それを未然に防ぐことができる。結果的に失敗しても原因の分析ができ、それを次に活かせる人。つまり「自分で自分自身を伸ばせる人」。

もちろん常識があることは重要です。以前の上司が言っていたのは「経験がない人間の唯一の武器は常識だ」という言葉を思い出します。仕事が他人や社会との接点を持って行われる以上、「常識」というのは共通のランゲージだと思います。「常識が通用しない人間」を相手にすることは、英語しかわからない相手にギリシャ語で話すようなものだと思います。経験がないからこそ(ないものは仕方ないですからね)自分の持てる常識の範囲で判断して問題解決をしていく必要があるのでしょう。

同時にそれ以上に必要なのは「品性」なのではないでしょうか。

いろいろな英訳がありますが、あえて選べばEleganceということでしょうか。Graceという単語も的を射ていると思います。これは身なりを必要以上に整えたり、取ってつけたような立ち居振る舞いすることではありません。相手の立場を理解できるだけの想像力を持ち、利己的になったり相手に迎合したりするのではなく、Self-confidenceを持って自然にそして対等に関係構築してゆくセンスだと思います。

これが試されるのは「相手に対し言いにくいことを言う時」ではないでしょうか。相手が喜ぶとわかっていることを伝えるのは簡単です。でも、仕事をしていると相手に取って耳障りなこと、伝えたら落胆されることも言わなければならない時があります。それをどれだけ相手が聞き入れてくれるように伝えることができるか?それを伝えた後、相手との距離をむしろより近いものにすることができるか。これは自分の品性を試される契機だと思います。

応募者の方にありがちなのは仕事を紹介してもらうまでは低姿勢なのに、面接などで期待した結果が出なくなったとたん何の連絡もなくなること。また、オファーは出たけれど入社を辞退したい場合、再三連絡を取っても知らんふり、ということがたまにあります。

反面、「このたびは自分の実力不足(あるいは他に理由があった場合はそれをストレートに伝えれば良いでしょう)でせっかくのチャンスを活かせなくて申し訳ない。これを経験として今後もチャレンジを続けたい」など胸の内を明かし、求人企業へは時間を取ってくれたことの御礼、紹介会社へもその労をねぎらうようなメッセージを送ってくる方もいます。

また、辞退するにしてもその理由をはっきりと述べ(論理的に説明がつかなくても「どうしても気が進まない」というのもそれはそれでひとつの理由です)、うやむやにしているうちに相手も忘れてくれるだろうという甘えた姿勢を取らないプロフェッショナルな姿勢の方もいます。実際、丁寧なお礼のメールを受け取った求人企業の採用責任者から連絡があり、「彼の人間としての品性を高く評価する。今回のポジションは不適任だったが、まもなく●●のポジションでの採用を考えるから彼をその候補にしたい」というお返事をいただいたこともあります。結果的にその方はそのポジションでの採用が始まる前に瞬く間に他の企業数社からオファーを受け、そのうちの1社で今も活躍されています。シンガポールに出張に来られるたびに今でもご丁寧に声を掛けて下さる方です。

東京勤務時代、フォーチュン100に連なる企業がクライアントの大半でした。こうした大企業のアジアパシフィック統括などのシニアポジションにいる方々とクライアント、候補者の両側面でお付き合いがありました。多忙を極めながらも、そういう方々の多くがこうした品性ある対応ができていました。きっと部下の方にもそうした対応をしているのだろうなと感じたものです。人を使う、いや「動かす」ことの真髄が分かっているのでしょう。

その昔に観た「ワーキング・ガール」という映画の中でシガニー・ウィーバー演じるキャリアウーマンが “Oh, I never burn a bridge”と言っていたセリフを思い出します。「橋は焼かない」と。どこでまた顔を合わせ世話になるかもしれないから。都合が悪くなってくると逃げ隠れする子供に対して、これがビジネスシーンでのあるべき大人の態度ではないかと思います。

アメリカ第35代大統領ジョン・F・ケネディ著のProfiles in Courageという本の中の言葉。

“Grace under pressure”

日々の仕事に忙殺される中、その言葉の意味を忘れずに過ごしたいと思います。
以上、自戒の念をこめて・・・


☆海外での就職・転職のご相談はプライムサーチインターナショナルまで☆
完全無料でご相談を承ります。