不遜な言い方をすれば、私は「生まれる国は選べないけど死ぬ国は選べる」と思っています。

日本人として生まれたことを誇りに思い、日本は今でも大好きな場所ではありますが、前回のブログで書いた通り「このまま日本にいて幸せに暮らせるんだろうか?」という疑問は現実問題として日々大きくなっていったのです。

そんな時にシンガポール人と結婚した高校時代の友人と会い、シンガポールに何度か遊びに来るようになりました。その前にも銀行勤務時代、上司のお供でシンガポールのMAS(金融庁)に表敬訪問に来たこともあり、シンガポールについては「アジアでありながらビジネスは欧米的(?)」というわりと良い印象を持っていたのです。

新卒から外資系企業に勤めていた自分にとって、コテコテのアジア的ビジネス文化はなじまないものがありましたが、かといって米国留学時代、人種差別をそれなりに経験したこともあって欧米へ一足飛びに就職する勇気はなかったのです。シンガポールには、中途半端に(?)欧米のドライさがあるようなアジアのコスモポリタン都市という漠然とした、しかし良いイメージを持っていたのです。

今でこそ当時ほどには物価は安くなくなりましたが、12年前は本当に何でも安く感じました。

収入−支出=利益の原則はいずこも同じ。ここでなら家が買えるかもしれない。単純に言えばそう考えたのです。海外といっても飛行機で7時間も飛べば帰れるし、インターネットなるものが近い将来、各国間をボーダーレスにしていくとの話も聞いていました(そしてそれはほんの数年後に実現されました)。

思いついたら行動あるのみ、の私は早速、まずは命題「シンガポールで暮らせるのか?」について調べ始めたのでした。期待ばかりが先行し、まだそのインターネットなるものもそれほど普及していなかった1996年初頭のことです。情報を集めるのにとにかく苦労しました。そのあたりは昨年8月12日付ブログ「10年前の海外就職」、9月2日付「シンガポール就職記・その1」、12月16日付「シンガポール就職記・その2」に詳しく書きましたのでご覧になってください。

自分を人材として「売る」ためには、そして数年働いて帰国ではなく場合によってはそれこそ「家を買うまで」シンガポールに残るかもしれない...ならば就職先はどう選べば良いのだろうか? そんなことをあれこれ考えました。今から思うと極めて単純で浅はかな考えではありましたが、自分なりのJustificationをもって考え出したのが次ぎの結論でした。

1. 日本人であることが人材価値のプレミアムになること
2. 国籍にかかわらず昇進の機会があること
3. 日系企業の場合、本社派遣、現地採用との間で任せられる業務にあまり差がないこと


勿論、これに自分のこれまでの経歴が活かされる就職先であることは言うまでもありません。

私は一貫して企画営業の世界にいましたので物販の経験はありませんでした。ですからモノが流通していく流れはまったく理解できるセンスがなく、しかし、お客様のニーズを汲み取って提案してセールスに結び付けていくことは、多少業界が異なっても出来るだろうとの自負がありました。

日系、現地資本、欧米系と面接の機会をいただき、日系2社と現地資本系1社から内定が出ました。

現地資本系と言っても本社がシンガポールにあるということだけで、社長はフランス人でしたし、社内には当時17カ国からのスタッフが働いていましたのでかなり欧米的な社風でもありました。日本人マーケットを担当するマーケティングスタッフが欲しいとのこと。当時、かなりの比率で日本人マーケットのビジネスを手掛けていた会社でした。

ここでなら、日本人であるだけで希少価値を生む。国籍に関わらず昇進できる。
上記、2点は早くもクリアでした。

もっとも、後日わかったのは(骨身にしみたのは)、日本人であることを重宝がられるのは最初のうちだけで後は徹底した実力主義であったこと。昇進の機会が平等であるということは、英語のハンディなどおかまいなしに業績査定も手加減なくされるシビアな環境であること、でしたが。

当時、33歳。マーケティングエグゼクティブ(こちらではマーケティング担当、ぐらいの意味)での募集でしたが、面接最後にやる気と多少のはったり(?)でアシスタント・マーケティング・マネジャーとして採用されました。初任給、3500ドル。残業手当なし。当時のレートで換算すると22万5千円ぐらいでしょうか。どれだけ働いても3500ドル、というわけです。

日本では、その直前に旅行会社で企画営業をやっていました。旅行会社というのは業界的にそれほど給与レベルは高くないのですが、それでも単純比較すればかなり減りました。旅行会社の前は外資系証券会社でしたから、その水準と比較すれば雲泥の差です。

しかし、あまり気になりませんでした。
そんな比較自体がナンセンスであることを知っていたからです。

(次回に続きます)

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