先日、ある資産運用セミナーに出席しました。
経済ジャーナリストの浅井隆さんという方による講演会でした。
資産運用といえるほどの資産はあるのか?と自問しつつも、こういう機会にはできるだけ出るようにしています。潤沢な資産など無いからこそ最初から効率的に貯める方法を学びたいからです。

初心者向けということでしたので実践的な運用ノウハウよりも、今の世界経済そして日本、シンガポール経済を歴史とデータで捉え危機意識を持たせるのを主眼としていらしたようで、その意味では良いきっかけを与えていただいたと思います。

シンガポールは今、不動産市場の異常な高騰に例を見るように経済が過熱しています。サブプライムローンの問題に端を発したアメリカ経済の先行き不透明感は話としてはあるものの、シンガポールにいる限りそれを実感を持って捉えるのはまだ先のようにも感じられます。

しかし、経済は景気サイクルの長短はあれど歴史的に長い目で見れば均衡を保つように出来ており、それであれば今の景気がこのまま長続きするのはあり得ない現象と言えるわけです。

歴史的に見ても100年前つまり20世紀への移行期にはパリ万博の好景気から第一次世界大戦、その後、大恐慌の時代が訪れ第二次世界大戦へと続いています。こうした時期に国家間のパワーシフトが起こるそうで、100年前はそれが英国から米国へ、現代に置き換えれば相手は中国になるとのこと。

また、今世紀、産業の原動力となっていた原油は今や統計上枯渇する時期が読めるまでになり、代替エネルギーの開発が急ピッチで行われています。同時に異常気候現象に影響される穀物相場の急変など、経済の前提条件が様々に変化する時代に入ってきています。先の読めない時代であると言うことでしょうか。

日本の国家負債は1千兆円を超え、雇用や社会保障制度の枠組みが崩壊し、頼ってきたものが頼れなくなってきているにも関わらず、まだ日本人は根拠のない自信と安心感の上に安住している。それを打破するために自分で情報を得よ、人生にリスクヘッジをかけよ、というのがメッセージでした。

そんなお話を聞いていて、12年前、シンガポールに来るきっかけを与えてくれたある日の出来事を思い出しました。

当時、33歳。仕事は面白いし結婚はまだ先でもいいかな、と思い、先々を考えて都内にマンションでも買おうかと思っていました。当時はこういう女性が増えていたらしく、大手の○○不動産が都内に1LDKの単身者用分譲マンションをあるブランド名で売り出した時でした。

JR目黒駅から徒歩10分の好立地の単身者用マンション。賃貸に比べ共有スペースも広く、内装も凝っていました。ベッドルームには小さめでしたが一人なら充分。女性をターゲットにしていると見えてセキュリティとキッチンは充実していました。

で、お値段。

当時の価格ですが、3500万円。手続きのコストやローン利子を入れればほぼ4000万の物件でした。当時も10万円近く家賃に払っていましたし、ボーナスでの増額返済もある。しかし...

「ローンは35年で組んでいただいて云々...」とニコニコ顔で説明する営業マンの顔をぼんやり眺めながら35年間この部屋のためにローンを払い続ける自分を想像しました。

35年後は私は既に68歳。多少の繰上げ返済が可能だとしても定年までは確実にローンはついてまわります。その後に残るのは築35年の1LDKマンションだけなわけです。

「なんかおかしくないか?」
大学卒業後、かれこれ10年働いているが家を買う頭金もたいして貯まっていない(それは自分も悪いのですが)。その後、30年以上も借金返済に明け暮れ、その後にこの程度のマンションしか手元に残らない人生って一体何なんだ...?

将来住むところがなくなると困るし、年齢が高くなると独身の女性は部屋を借りるのも難しくなるという話はそれなりに理解はできました。でも、地方に行けばいくらでも土地は余っているし、そもそも住まいなんてライフステージによって変化する単なる「入れ物」でしかないんじゃない? ライフステージに住まいを合わせるのが本来であって、なぜ人生を犠牲にしてまで住まいのために働かなければならないのか?

「仕事をする場でしかない東京の住まいは賃貸、休暇やまとまった時間を過ごすために長野に一軒屋を持っている。引退後は長野でゆっくり暮らす」と言っていた著名なジャーナリストの方がいました。アメリカに留学していた時にお世話になったファミリーも、家族構成の変化やライフスタイルの変化に応じて家をどんどん住み替えていました。土地・家=資産なんだろうか? 流動性が確保できている市況ならばそれでも良いが、市場が急落したら売るにも売れなくなる。35年ローンを払い終えた時に長野で引退したいと思っても、そのマンションが売れる保証はどこにもないと思いました。

その日を境に私はことある毎に日本の先行きを考えるようになりました。
その状況の変化が自分の人生にどのような影響を及ぼすかを真剣に考えました。


既に高齢化社会への予測は立っていましたし、国家財政は赤字でした。バブル崩壊後で金利はどんどん下がりしかし株式市場はそれに反応しない。税収が足りなくなれば元々積極運用はしない日本政府のこと、増税という手段でしか赤字を埋めることはできないだろうな、と。そうなればこれまで払ってきた年金など払った分すらも戻ってはこないな、と。

そのときの予想は約10年後、経済小説家・幸田真音さんの「日本国債」「代行返上」などの作品を読むと充分当たっていたことを知らされました。

何よりもこれだけ働いてきて、将来にわたりまともに家一軒買えない国にいることがおかしいことのように思えてきたのです。

私の海外就職は実はそこから始まりました。

(次回に続きます)

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