最近、立て続けに学生さんに対して講演をする機会をいただきました。

先週は都内の大学のアントレプレナーゼミの研修旅行、そして今週は福岡の修学旅行の高校生でした。

その場で思いついたことだけを喋るわけにはいきませんので、それなりに準備をして伺います。
「海外で生きる日本人」「シンガポールで仕事をしている女性」という観点でご紹介いただいているわけですから、こうした立場から何を伝えれば良いのか、自分自身を振り返りながら取り組むことになります。

両校の先生方から求められたのは、「これからの日本人に求められることは」「海外で通用する国際人になるには」という視点からのメッセージでした。

私自身が果たして海外で通用しているのか国際人と名乗れるほどのものなのかは定かではありませんが、まがりなりにもシンガポールで16年暮らして、現地資本の会社で数少ない日本人として働いた後に起業して今に至っておりますので、日本国内で過ごしてきた若い方々に対して少しは目新しい視点でメッセージが送れるのではないかと思いお引き受けしました。

大学生と高校生ですから受け取り方も異なるでしょうが、海外で生きる日本人として必要な要素としてあげた点は「発信する力の重要性」そして「真のコミュニケーション力とは」という二点です。

異文化の中では、「わかってくれるだろう」という推測(または甘え)は通用せず、とにかく言葉で伝えていかなければならない。

相手が関心を示して歩み寄ってくれるのを待つのではなく、やりたいことがあるのなら自ら相手を探し、出かけて行って明確な言葉をもって伝えること。

異文化において、自らを理解してもらうための努力は最低限必要な努力であり、その先には当然Win-Winの関係が期待されなければならない、ということです。

それがなければ単なる独りよがりの自己主張でしかありません。

外国語は重要ではありますが、外国語下手を理由に相手から逃げていたのでは、海外に出ながらも所詮は日本人の中で右往左往して終わってしまうと思います。

発信力とはもちろん語学力や単に弁舌なめらかなことではありませんが、同時に言葉もまともに喋れない人間と真っ当なビジネスができるわけがないのですから、「アウェイで戦う」ことを覚悟した以上、相手の理解できる言語を習得することは基本であることも強調しました。

そして、「コミュニケーション能力」。

仕事の中で、日本から進出してくる企業のビジネスパートナーを探したり、投資家へのプレゼンテーションを代行したりということをしておりますが、その際に常々感じることは、「自分の伝えたいことと相手の知りたいことは同一ではない」という当たり前の事実。であれば、相手の立場に立って知りたいと思うことを想定し、それに対する答えを発信していかなければ伝わることも伝わらないと思います。

技術や製品の素晴らしさを語るのも結構ですが、代理店が知りたいことは「既存の製品に対する比較優位(つまり売れるか売れないか)」であり、投資家にとっては「投資金額に対するリターンの規模と時間軸(いつまでにどの程度儲かるか)」なのです。

そう言ってしまっては身も蓋もないでしょうが、ビジネスはビジネスですからそれが本音だと考えた方が良いでしょう。

もっと単純な例をあげれば、かつて進出をお手伝いした日本企業のクライアント様が日本から用意してきた英文名刺にはSales Department 2/Section 2とありました。

日本語を見ると営業二課第二チームとなっています。

その会社では国内営業が一課、海外営業が二課となっており、これまでは海外については代理店経由で販売をしていました。

このたび重要市場においては独資での進出をするということで、二課の中でそれを担当する第二チームが誕生したとのこと。

英訳は間違っていませんが、しかしこれでは外国人は何をやっている方なのか見当がつきません。
新しい相手に会うたびに、そんな社内事情を説明するのはナンセンスです。

今となっては笑い話なのですが、当時はSales Department 2と書かれた名刺を100枚持って来星されたので、急遽私がパソコンで「何をやっている人なのかわかる名刺」を作って、それを持ってビジネスパートナー候補企業を訪問をしたものです。今でもその会社の方とお会いするとこの話が出て苦笑されます。

また、海外ではその方がどこまでの決裁権を持っているのかが重要視されますので、人事上、管理職でなくても何らかのタイトルはあった方が良い、Project Leaderという表現ひとつを書き加えれば、相手にはそのプロジェクトの担当者、責任者であることが判明し、より深い話もできるでしょう。

こうしたことも異文化理解、アウェイで戦うためのルールの理解です。
しかし知識として覚えこむのではなく、「コミュニケーションを取るためには何をすべきか?」という原理原則を押さえておけば、おのずと対応策は浮かぶものです。

自己紹介ひとつをとっても、型通りの所属を述べるのではな、相手が知りたいことを先回りして捉え、それに対して自己紹介をしていくことが重要だと伝えました。

「なぜ今日、自分はここにいるか、何を伝えたいか、何を聞きたいか」という自分の期待を具体的に伝えておけば、相手もより焦点を絞った話ができるからです。

未来のアントレプレナーの皆さんには「アイディア(思いつき)→調査→仮説→検証」プロセスの繰り返しを死ぬほどやってください、ビジネスの案なんて100あってもモノになるのはごくわずか。そして、常に常にビジネスになりそうなものに関心を持って追いかけてください(その点私はもう中毒です!これを考えるとワクワクして寝付けません!)。どこでどんな人と出会ってもその縁を大切に。 どんな話にでもついていけるだけの教養の大切さなどをお話しました。

実際、欧米のビジネスマンと話していると、歴史や古典をちゃんと理解している方が多いです。

アントレプレナーゼミの学生さんとは、後半、それぞれのグループからシンガポールに根差したビジネス案のコンペが行われ、教授と共に審査員に加わりました。

クライアントの盲点を突いて事前に策を練るのがコンサルタントの仕事ですから、遠慮なく(容赦なく?)ビシバシとフィードバックさせていただきましたが、短期間で準備したにしてはどのグループも良い目の付けどころだと思いました。

発案する側に視点が傾き過ぎているのは、まだ仕方がないでしょう。
ビジネスとして成立させるには、市場への参入障壁やら優位性やら採算性やら、とにかく考えなければならないことが山とあります。

そして「予測できたリスクはもはやリスクではない」こと、「それを取りこんで練り直したプランは更に強いこと」などもお伝えしました。

私自身、まだまだ駆け出し経営者であり人様に語るような立場ではありませんが、いただいた機会は感謝して受け取り、そこで話すことのプレッシャーを自分の肥やしにもしていきたいと思います。

転んでもタダでは起きないことです(転んでいないけど・・・笑)。


そして、単純に・・・楽しかったよ、皆さん!!

次回はビジネスの場で会えると嬉しいですね。